タイトルの通り、自宅のルータに YAMAHA RTX830 を、無線 LAN アクセスポイントに YAMAHA WLX212 を導入してみた。 今回は、それに至る背景や使ってみての所感を述べる。 なお、YAMAHA 製のネットワーク機器を扱うのは、これが初めての経験だった。
もくじ
業務用のネットワーク機器について
一般的に、ネットワーク機器には大きく分けて個人向けと法人向け (業務用) の 2 通りの製品がある。 今回導入したのは、その中で業務用に該当する。
業務用のネットワーク機器には、一般的に次のようなメリットがある。
- 安定性が高い
- 機能とカスタマイズ性が高い
安定性が高いというのは、文字通り長期に渡って安定した稼働が期待できる。 例えば、不安定な動作にならず再起動なしに数年間でも稼働し続けるといったことが業務用のネットワーク機器には求められる。 また、ハードウェア的にもメーカーが技術仕様として MTBF (平均故障間隔) を数十年と規定している場合がある 1。 主観的には、機器に高い負荷がかかるような状況でも動作が不安定になりにくい傾向があるように思う。
機能とカスタマイズ性が高いというのは、分かりやすいところだと VPN が使えたり 2 回線や機器の冗長構成が組めたりする。 ただし、これはメリットでもある一方で扱うのに一定の知識が求められるデメリットにもなりうる。 というのも、一般的に業務用のネットワーク機器は Web UI (GUI) ですべての設定が完結しない場合が多い。 代わりに、すべての機能を扱うにはコマンドライン (CUI) で設定する必要がある。
また、業務用のネットワーク機器の明確なデメリットとして「新品の値段が高い」という点がある。 現在の相場で、新品の RTX830 は 5 万円弱、WLX212 も 2 万円強はする。 一方で、個人向けのブロードバンドルータでローエンドモデルなら 1 万円しない選択肢も存在する。 ただし、値段に関しては機器の信頼性やサポート期間、多岐にわたる機能の開発から QA やサポートまで考慮に含める必要がある。
導入に至った背景について
特に大したことはしていないものの、以前から自宅のネットワークには業務用の機器を導入していた。
まず、ルータについては、とある業務用のルータを 10 年以上に渡って使っていた。 ただし、メーカーによる製品のサポート自体は継続しているものの、新規の機能追加は停止している状態にあった。 なので、最近はリプレースの時期を伺っていた。
次に、無線 LAN のアクセスポイントについてはコロナ禍の時期 (2020 年) に業務用の製品にリプレースしていた。 というのも、自宅で仕事をしていると 1 日に 1 回程度は、不定期なタイミングで無線 LAN のアクセスポイントが不安定になることに気づいたため。 より具体的には、数分間に渡って著しいパケットロスや RTT の増大が見られた 3。
個人向けのアクセスポイントは、想定している同時接続台数が少ない場合が多い。 ローエンドのモデルなどは特に、仕様上の同時接続数を 20 台程度に規定していたりする。 そういった事情もあって、自宅で無線 LAN につながっている機器の台数を考えると、性能が不足している可能性があったのでリプレースしていた。
そういった背景から、まずはルータのリプレースについて考えていた。 せっかくなら使ったことのないメーカーを、ということで国内の YAMAHA RTX シリーズと NEC UNIVERGE IX シリーズが候補に上がった。
YAMAHA RTX シリーズに関しては、概ね次のような長所が考えられた。 とはいえ、結局のところ最終的な選定理由としては YAMAHA のネットワーク機器になんとなく憧れがあった点が大きい。
- ファームウェアの入手性に優れる
- ドキュメントを含めてメーカーのサポートが手厚い
- Web 上に利用事例が多く見つかる (ユーザ数が多い)
ドキュメントや Web 上の利用事例がたくさん見つかる点は、新しいコマンド体系を理解する上で大いに役立った。 2023 年の日経による調査では、企業ネットワークにおけるルータのシェアは YAMAHA が 1 位を獲得しているらしい。 特に、中小規模のネットワークでよく使われているようだ。
ちなみに「ファームウェアの入手性に優れる」という点は、業務用のネットワーク機器を扱う際には注意すべきポイントになっている。 というのも、メーカーによっては新しいファームウェアを入手するのに販売代理店を経由したり、何らかの契約を必要とする場合があるため。
なお、NEC UNIVERGE IX シリーズであれば、次のような長所が考えられる。
- サポート期間中の製品も含めて中古の機材が安価に入手できる
- 機器をクラウドで管理できる NetMeister サービスが無料で利用できる
- 初期のファームウェアが v10 系以降なら NetMeister 経由でファームウェアをアップデートできる
- コマンド体系が Cisco に近いので使ったことがある人にとっては違和感が少ない
上記の、サポート期間中の製品が安く手に入るというのは明確な長所になるはず。 製品によっては、なんなら個人向けのブロードバンドルータよりも安上がりかもしれない。
利用までの下準備について
前述のとおり、業務用のネットワーク機器はコマンドラインの操作を必要とする場合が多い。 そのため、事前にコンソールポート経由で設定する方法は用意しておいた方が良い。
典型的には USB シリアル変換ケーブルと、コンソールケーブルを組み合わせて使う。 今だと間の D-SUB 9 ピンを不要にした USB - RJ45 のケーブルも一般的なようだ。
以下の製品であれば、現行の macOS ならドライバを別途導入することなく利用できるはず。
使用するコンソールケーブルのピンアサインは Cisco と互換性がある場合が多い。 前述の YAMAHA RTX シリーズと NEC UNIVERGE IX シリーズは、いずれも互換性がある。 なので、純正品を選ばなくても Cisco 互換のケーブルを利用できる。
なお、単にコマンドを入力するだけなら Web UI や telnet などからでもできる。 しかし、設定を間違えた場合などを考えると、あらかじめコンソールポートは使えるようにしておいた方が良い。
導入した製品について
今回は、せっかくならと無線 LAN アクセスポイントの WLX212 や L2 スイッチの SWX2110-5G も同時に購入した。 ネットワーク機器を YAMAHA で揃えると Web UI の「LANマップ機能」で一括管理できるらしい。
RTX830
RTX830 は小規模拠点向けのエッジルータのひとつ。 発売が 2017 年なので、そろそろ時期的に後継機が出そうな雰囲気ではある。
我が家では、以下のような設定で使っている。 IPv4 over IPv6 サービスと PPPoE を 1 台で併用できるあたりが業務用ルータの良いところ。 なお、キャリア回線には NTT のフレッツひかりを利用している。
- IPv6 は IPoE (光電話なし) で降ってくる RA をプロキシする
- IPv4 はメインの経路として transix の DS-Lite (RFC6333) を利用する
- メインの経路が使えない場合のバックアップ経路に ISP の PPPoE を利用する
- リモートアクセス VPN として IKEv2 を利用する
- IPsec 関連のトラフィックはポリシールーティングで全て PPPoE に向ける
- VPN のエンドポイントになるグローバル IP アドレスはネットボランチDNSサービス 4 を使って FQDN で解決できるようにする
ちなみに Android 12 以降はリモートアクセス VPN のプロトコルに L2TP/IPsec が使えなくなったらしい。 そんな背景もあってリモートアクセス VPN は IKEv2 で統一することにした。
WLX212
WLX212 は 2020 年に発売された小規模拠点向けの無線 LAN アクセスポイント。 スペック上の同時接続数は 2.4GHz / 5GHz の各バンドあたり 50 台で、最大 100 台になっている。 対応している無線 LAN の規格は Wi-Fi 5 (IEEE 802.11ac) まで。
なお、電源アダプタが同梱されていない点には注意が必要になる。 この製品は PoE (IEEE 802.3af) に対応しているため。 もし、PoE に対応したスイッチやインジェクタがあれば、電源アダプタがなくても動作する。
WLX212 に関しても、コンソールポートからコマンドラインで設定できる。 とはいえ、機能的には無線 LAN アクセスポイントに過ぎないので Web UI からの設定でも十分に事足りる。 YAMAHA のルータと併用している場合には、ルータの Web UI からリバースプロキシの機能で管理画面にアクセスできる。 また、LANマップ機能を使うと接続している機器が一元的に確認できるので便利だった。
ちなみに、併売されている後継機種として WLX222 がある。 予算に余裕があれば、こちらを選ぶのも良さそう。 WLX212 と比べて、次のような点が優れている。
- 2.5GbE に対応している
- Wi-Fi 6 (IEEE 802.11ax) に対応している
- バンドあたりの同時接続数が 70 台 (最大 140 台) に増えている
SWX2110-5G
タグ VLAN (IEEE 802.1Q) に対応していて 1 万円しなかったので、ついでに導入してみた L2 スイッチ。 ただし、PoE には対応していない。
このスイッチは、YAMAHA 製のルータと組み合わせて利用するのが前提になっている感じ。 基本的に、ルータの Web UI 経由で設定する。 今のところタグ VLAN を使っていないので、本当にただのスイッチングハブになっている。 将来的にサブネットを増やすときは活躍してくれるかもしれない。
導入後の所感について
使ってみての所感としては、まず導入した機器の機能や性能に満足している。 そして、以下の点が収穫だったと感じる。
- YAMAHA のコマンド体系に慣れることができた
- 提供されている機能やサービスを使いながら把握できた
現状の構成における改善点は、ネットワークの管理がオンプレミスになっている点が挙げられる。 そうした意味では Yamaha Network Organizer (YNO) を使ったクラウドでの管理が、個人ユーザはより安価にできると嬉しい。 たとえば物理的に遠方にある実家のネットワークに導入するという観点では、機器をクラウドで管理したい気持ちがある 5。 この点は、現時点では NEC UNIVERGE IX を購入して無料の NetMeister 経由で使うのが良いのかなと思っている。 実家と異なるメーカーで IPsec VPN を張るのも楽しそうだ。